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秋田県は米どころ、新潟県、北海道に次いで全国3位の米生産量を誇る。主力生産米は誰もが知る「あきたこまち」。1984年に誕生し、粘り、食味に優れた品種で、デビューまもなく全国トップブランドとなり、現在では東北の定番銘柄となっている。そのネーミングからも秋田といえば、あきたこまち、そう思う人もおおいだろう。「あきたこまちは長らく秋田県の主力米。それは今後も変わらないが、あきたこまちと違う方向性でトップを目指す米として、サキホコレが作られました」と仙北平野で代々米農家をしている小玉均さんは話す。
小玉さんの田んぼがある仙北平野は秋田県の中南部に位置し大仙市、仙北市、美郷町にまたがる10,060haの水田からなる農業地帯である。一級河川の雄物川が流れ、出羽山地や奥羽山脈の山々が適度に季節風をさえぎり、豪雪地帯ではあるものの、夏は晴れの日が多く気温が高くなる。寒暖の差、きれいな水、良質な米を作るのに適した環境が揃っており、昔から米づくりが盛んな地域だった。それぞれの農家が自分たちの成功体験をお互いに共有しあうという地域文化もあり、稲作栽培の技術レベルが日本トップクラスの農家が集まる場所でもある。とにかくおいしいお米を食べてもらいたい、というそれぞれの農家の温かい想いが地域の米づくりの技術を向上させてきた。また小玉さんは、米取扱量日本一で知られる「秋田おばこ農業協同組合」が、消費地で重要視されている食味の向上を図ることなどを目的に開催する、「おいしいお米コンクール」の上位10名に贈られる称号「おばこの匠」で最高賞の金賞を2度も受賞しているベテラン農家だ。小玉さんはこれまで「あきたこまちや」、「秋のきらめき」、「ゆめおばこ」といった秋田県のブランド米を栽培してきており、安定して良質な米を生産できる農家である事が条件となっているサキホコレの試験栽培農家に、その米づくりの高い手腕が評価され選ばれたのだ。
サキホコレは「コシヒカリを超える極良食味品種」をコンセプトにして、秋田県が研究を重ね世に送り出した新品種。あきたこまちは、きめ細かくやさしい甘さが特徴の万人向けの品種であるのに対し、サキホコレは、粒立ちがよく、シャキッとした食感。噛めば噛むほど旨味が出て味わい深い。お米マイスターなどの専門家の間でも次世代の米として注目されているという。
サキホコレは成熟期が遅い晩成種であることから、気象条件などが細かく定められた「作付推奨地域」を設定しており、米作りの基本技量が一定の水準をクリアした生産者にしか栽培を許さず、品質出荷時のチェック体制にも厳格な基準を設けている。味重視でつくられたサキホコレは、こうした理由から、生産者を選ぶ米でもあるのだ。
まず、米が穂を出して実る時期に、日中の平均気温が22度以上の地でなければならないい。さらに収穫したサキホコレも、玄米たんぱく値6.4以下、という決まりがある。たんぱく値が上がると、米の旨味、食感のバランスが崩れてしまうためだ。とはいえ、6.4以下というのはなかなか厳しい基準。「生産者も安易にサキホコレを作れない。今年、うちで作ったサキホコレは、たんぱく値5.5、食味が86でしたからホッとしています」と小玉さんは話す。
たとえば米の収量を上げるために、肥料を与えてしまうと、たんぱく値が上がってしまう。サキホコレは、収量が少なくても一粒一粒をよりよい品質で作っていこうという品種なのだ。味本位で考え、工夫して育てないとうまく収穫できないのだ。小玉さんは初年度の作付けから、万全の態勢で臨み、基準値を大きく上回るサキホコレを収穫した。その味は、長年米農家を営んでいる小玉さんにとっても予想以上のものだったという。
「サキホコレが秋田の新しい光になってくれるよう、自分は高い品質での米作りを頑張り続けるつもりだ。自分が頑張れば、それを目指す後進たちが出てきて、地域全体の米作りの質が上がると思っている。それは産地全体が成長していくことにつながっていると信じている。」そう語る小玉さんの目は日本の米作りが目指すべき未来を見つめていた。