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現在の日本の酒造りで使用されている酵母の中で最古のものと言えば「きょうかい6号」。この酵母を生んだ蔵としても知られているのが新政酒造だ。新政酒造はこれまで、さまざまな改革を行ってきた。秋田県産の米だけを使う、純米造りにこだわる、工業的な添加物を一切使わない、木桶で発酵させるなど、革新的でありながら、一方で伝統産業の良さを再認識させるその手法に誰もが驚いた。
そんな改革をすべて行ってきた新政酒造の8代目当主、佐藤祐輔さんが蔵に戻って、14年が経つ。佐藤さんが手掛け、今では新政酒造の看板シリーズとなっている「No.6(ナンバーシックス)」をリリースしてから、気が付けば10年の歳月が過ぎていた。徹底的に良いものを作る、蔵に戻る前に思い描いていた沢山のやりたかったことを実現し、とにかく走り続けてきたと佐藤さんは振り返る。
本当に良い酒造りがしたくて、前職をやめて蔵に戻った佐藤さんは、妥協することなく、究極の酒造りを目指してきた。当初は周囲からは、「変わった事をしている人」だと思われていたのだと笑う。ほんものの酒造りがしたくて、たくさんの文献を読み漁り、他の酒蔵へ勉強にも出向いた。最高の酒造りにとって必要な事を追求すると、全てが伝統の製法にたどり着いた。それらは手間がかかり、大変なやり方ばかり。時代の流れが、効率の良さや合理性を求め、簡略化してきたやり方だった。一見、古いやり方への回帰に見える事も、突き詰めていくと、理にかなった事ばかりで、面倒だからという事だけでは、やらない理由にはならなかった。時には利益も度外視、完璧な酒造りを目指す佐藤さんには当たり前の事だった。
「伝統的な酒造りを探求し、そこで少しでも味を良くしようと考えると、莫大なコストがかかる。これはもう仕方のないことです。私たちは伝統製法を大切にしながら、それにまつわる伝統産業を守っていくためにも進化しようとしている。」と佐藤さんは言う。
そして今度の改革は、米を無農薬栽培する事から始まる酒づくりだ。
2013年から、契約農家に要望を伝え、オーダーメイドで酒米栽培を委託する事を始めた。そこからもう一歩進んで、無農薬栽培に取り組みたいと考えたが、ここでもやはり手間がかかりすぎる為、積極的に協力してくれる農家が少なかった。
それならと、自分たちで米づくりを始める事にしたのだ。
新政酒造が手掛ける無農薬栽培の圃場は、秋田市河辺地区鵜養(うやしない)にある。大又川の美しい流れが、山間の集落をうるおす自然豊かな場所である。
自社圃場の無農薬栽培で造った米で作った酒は、2018年に初めて、一般向けに限られた数ながら「農民藝術概論」と名付けられ出荷された。宮沢賢治の『農民藝術概論 網要』というメモ書きのような作品名をオマージュして冠したこの酒が、新政酒造の新たな動きと共に注目を集めている。
“われらに要るものは銀河を包む透明な意志巨きな(おおきな)力と熱である”、と宮沢賢治が書いた結びの言葉にいざなわれるように、新政酒造の改革は続く。