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日本各地には、正月などに仮面をかぶったり仮装をしたりした「神」が家々を訪れ、幸運をもたらすという“来訪神”の行事が数多く残っています。
このたび、8県10件の伝統的な「来訪神 仮面・仮装の神々」がユネスコ無形文化遺産に登録が決定。東北からは、秋田県の「男鹿のナマハゲ」をはじめ、岩手県の「吉浜のスネカ」、宮城県の「米川の水かぶり」、山形県の「遊佐の小正月行事」の4件が選ばれました。東北ならではのディープな来訪神行事をご紹介しましょう。
秋田県男鹿市に伝わる「ナマハゲ」は、囲炉裏にばかりあたっていた証拠の赤い斑点「ナモミ」を剥いで、怠け者を懲らしめる「ナモミ剥ぎ」が語源といわれています。
大晦日の晩、稲藁で作ったケラミノをまとい大きな出刃包丁を手にもったナマハゲが、「悪い子はいねがー」「泣く子はいねがー」と家々をめぐります。家の主人は丁重に迎え、今年一年の家族の悪事などを釈明し、最後は酒を振る舞ってお帰りいただく、恐ろしくもユーモラスな伝統行事です。
男鹿市にある「男鹿真山伝承館」では、実際のナマハゲ行事を体感できます。うなり声をあげたりシコを踏んだりするナマハゲは、迫力満点です。
岩手県大船渡市の「吉浜のスネカ」は、始まりは江戸時代以前といわれていますが、定かではありません。毎年1月15日に、鬼のような犬のような、独特のお面をかぶったスネカが家々を回って怠け者を戒めます。
スネカは、火にあたってついた怠け者の脛(すね)の皮をはぎ取る「脛皮たくり」からきています。藁みのの衣装には地元で獲れるアワビの貝殻が付いていて、歩くたびに鳴る「ガラガラ、ガラガラ」の音が子どもたちの恐怖をかきたてるそうですよ。
宮城県登米市に伝わる「米川の水かぶり」は、火難除けと厄払いを祈願する奇祭です。毎年2月の初午(はつうま)の日の朝、裸の男たちが「あたま」と「わっか」と呼ばれる藁装束としめ縄を身に着け、顔に煤を塗って、家々の屋根に桶で水をかけながら町中を走り抜けます。
衣装の藁は火伏のお守りになるといわれ、見学に訪れた人々は男たちの衣装からこぞって藁を引き抜きます。昔から、五日町地区以外の者が参加すると火災が起こるという言い伝えがあるため、地域外の人は参加できませんが、見学は可能です。
「遊佐のアマハゲ」は、「男鹿のナマハゲ」と似ている山形県遊佐町の小正月の伝統行事。アマハゲの呼び方は、このあたりの方言で、囲炉裏に当たってできる手足の赤い斑点を「アマミ」と呼ぶことに由来しています。 藁を何重にも重ねた「ケンダン」という蓑を身にまとい、鬼や翁の面をつけた若者が正月に各家をまわり、五穀豊穣や無病息災を祈願します。
似ているようで、それぞれ個性的な東北の「来訪神」たち。4つの行事はいずれも国の重要無形民俗文化財に指定されています。各地の伝統行事に触れて、日常の奥に存在する不思議な世界を感じてみてはいかがでしょう。
※来訪神行事の多くは一般家庭が舞台となります。集落における巡行の雰囲気を感じ取ることはできますが、来訪神は神様であり、これらの行事は神事であることをご理解ください。
2018年12月時点での情報です。