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宮城県産の獲れたて殻付カキを、生産から流通まで自社で行なう「和がき」。代表取締役として経営している阿部年巳(あべとしみ)さんのインタビュー後編をお届けします。
~阿部さんが「和がき」を設立したきっかけとは?前編はこちらから!~
http://www.shoepress.com/topics/04_0022.html
新しい“カキビジネス”のヒントを探しに、フランスを訪れた阿部さん。日本とは違うカキの流通に衝撃を受けます。
「フランスでは、ひとつの会社が漁師と契約をして、カキの生産から流通、レストランまで経営し、成功していたんです。すべて別々の会社でするのが当たり前だと思っていたから、驚きでした。しかもカキは殻付のまま出荷。当時日本では、9割くらいがむき身でした。
漁師は殻付のまま食べるのが一番おいしいって分かっていたけれど、まだそのことに市場は気付いていなかった。漁師は殻むきをしないで、獲ったそのままの状態を買い取ってもらえるし、中間業者が入らないから、最短時間で高品質のカキを飲食店に届けることもできる。みんなにとって良いことしかないんです。
日本で殻付カキがどれだけ受け入れられるかは未知数だったけれど、成功すればいいビジネスモデルになるんじゃないかと思いました」
“これだ!”と確信した阿部さんは帰国後、早速準備に取りかかります。2011年12月には、同じ志をもった仲間たちと「株式会社和がき」を設立。その2年後の2013年には出荷工場を完成させ、事業が本格的にスタートしました。
自社ですべて行なうシステムを“誰でもマネできるやり方”と話す阿部さんですが、「和がき」ならではの強みがあります。
「塩竈から雄勝まで、現在約30人の漁師と契約しています。私は元漁師なので、彼らの考えや海について分かることが多い。天候や海の様子を見て、“明日は海が荒れるから今日多めに獲っておいて”といった具体的な指示や、今どこで獲れるカキが一番おいしいかも分かるので、高品質の商品をお客さまに届けられます。これは普通の問屋さんではできないことですね」
現在、船に乗る機会は減ったものの、なるべく漁師の仲間と話す時間を増やし、常に現場の声を聞いています。
ここ数年、じわじわとカキ小屋や海外の日本食ブームが盛り上がり、殻付カキの注文が増えているそう。香港にある高級ホテルのレストランにも、朝獲れたカキをその日の内に空輸で届けています。
最後に「和がき」のこれからのビジョンをうかがいました。
現在いくつか進行しているプロジェクトはあるものの、明確なことはあえて決めていないそう。
「固定観念にとらわれないように、なにも決めない方が良いかなと思って。先日シャープの人と、3Dのディスプレイでカキを見たらおもしろいんじゃないかって話したんです。意外なところから新しい発想が生まれると考えているので、水産業に関わらずさまざまな業界とつながり、おもしろい仕事をしたいですね」
柔軟な考えで、ゼロから新しい“カキビジネス”のモデルをつくった阿部さん。これからさらに「和がき」ブランドのカキが、日本や世界に広まっていきそうです。
阿部年巳(あべとしみ)さん
1977年宮城県東松島市生まれ。2002年に勤めていたドラッグストアを退社後、父親の跡を継ぎ、カキ漁師の道を目指す。2011年12月に「株式会社和がき」を設立、2013年に出荷工場を建設。事業を再開し現在に至る。
2018年5月時点での情報です。