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近年、「刀剣女子」と呼ばれる女性が増え、日本刀が社会的ブームになっています。刀の展示があれば、全国津々浦々、お目当ての刀に“会いに行く”という女子たちがあとを絶ちません。
ところで、ブームよりもかなり前から刀の素晴らしさを伝え続ける美術館が、宮城県にあるのをご存じでしょうか?今回は、刀大好き歴3年目のシュープレススタッフ・Kが、オタク全開で刀専門の美術館「中鉢美術館」をご紹介します!
「中鉢美術館」は、宮城県大崎市のJR有備館駅から歩いて5分ほどの場所にあります。周りには、伊達家家臣子弟学問所だった「旧有備館・庭園」、現在は公園となっている伊達政宗の居城跡「城山公園」といった、伊達家ゆかりの場所がたくさん。そんな、歴史ファンにはたまらないロケーションに建つ美術館です。
展示室では、日本刀はもちろんのこと、日本刀へ進化する前の古剣や刀の原材料・玉鋼(たまはがね)などを見ることができます。薄暗く感じるのは、刀に当てたライトで、波紋や地鉄(じがね)を見えやすくするための配慮。波紋は刀の白い刃の部分にライトを当てると浮かび上がる線のことで、地鉄とは刀の地肌の部分です。
土・日曜に観賞していると、まれに、中鉢館長と一緒に展示を観賞しながら解説をしてもらえることも。例え話や軽快なシャレを交えながら、わかりやすく説明をしてくださるので、刀についてより深く詳しく知ることができます。気になる方は現地に足を運んでみてください。
「中鉢美術館」の展示テーマは、「日本刀の源流は東北だったのではないか」という内容。そのため、「月山俊吉」「舞草閉寂」「玉造宝寿」といった東北で打たれた刀が、解説パネルと一緒に数多く展示されています。特に、月山系の刀に見られる波打つような地鉄の美しい模様は必見です。
「刀は機能性と美を兼ねそなえている」とは、中鉢館長の言葉です。それは、切れ味がよいということではなく、精神性の話。江戸時代頃までは、刀を研ぐ店は「心の研ぎ処」という看板を掲げていたそうです。また、「人が名刀をつくり、名刀が人柄をつくる」と言った、時の権力者もいました。
刀は見る角度や見る人の心のありようによって見え方が変わります。刀のよいところを見つけようと、角度を変えながら探して見つけられる人は、他者やどんな物事に対してもそういったことができる証。ということは、刀の悪いところばかり見える人は…。そんな刀と日本人の精神性のつながりについて、この美術館を訪れるまではまったく考えたこともありませんでした。これが、世界から高く評価される日本刀の美しさのひとつなのかなと思います。
ここで刀の楽しみ方として、私のおすすめをひとつご紹介。刀を知るときに、逸話についても調べてみるとおもしろいですよ。たとえば、上の写真は「中鉢美術館」に展示されている、名工・正宗の打った脇差で「振分髪(ふりわけがみ)」というニックネームをもつと伝わります。その由来は、伊達政宗が関わる逸話なのだそう。
ある日、とある大名が政宗に「その脇差は、やっぱり正宗なんでしょうね」と声をかけました。「いかにも」と政宗は返しましたが、実はまったくの別物。当時、正宗の作品と伝わる刀には短い刀が多かったのですが、政宗が所有していたのは正宗作としては珍しい太刀(長い刀)でした。珍しい刀を刷り上げる(短くする)のをためらう政宗は、仲が良く知識人でもあった大名・細川幽斎に相談します。
それに対して幽斎は、『伊勢物語』に出てきた恋の歌を持ちだして「名工・正宗の太刀を刷り上げられるのは、名将・政宗だけだ」と返し、刷り上げられた刀は歌にちなんで「振分髪」と名付けられました。
この逸話の真偽は定かではないようですが、こんな話が語られるほど、政宗は刀の収集家として有名だったのかもしれません。もしくは、細川幽斎が知識人として多くの人に知られていたからなのか、政宗と正宗の名前が似ているからなのか…。事実関係はともかく、なぜそう語られたのかを自由に妄想してみてください。
今、刀剣ブームが来ているからこそ、刀が日本人にとってどんな存在だったのかを見直すのもいいかもしれません。「中鉢美術館」で、刀がもつ本当の美しさを感じてみませんか?
以上、シュープレススタッフ・Kが、熱く!お送りしました。
2019年5月時点での情報です。