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横浜の中華料理店で働いていた野田博次さんは、40年ほど前、亘理に移り「横浜ラーメン龍味」を開いた。看板メニューに掲げたのは「サンマーメン」。だしの素材にサンマを使っているわけでもないのに、サンマーメンと呼ぶこのメニューは、横浜名物のご当地麺。ただ、当時の宮城県では誰も知る人がいない。そんなサンマーメンが、今では龍味に来店する客の半分以上が注文する人気メニューとなっている。
「その由来はよくわからないけど、私が中華料理店で働き始めた頃からあった」と主人の野田さん。横浜発祥で神奈川県民のソウルフードと言われるサンマーメンだが、他県ではあまり知られていない。醤油ベースのスープに細麺、その上にもやしと白菜、豚肉などを炒めたあんかけがたっぷりとのっている。魚のサンマは一切登場なし。
その名の由来は広東語から来ているようで、サン=生、マー=馬、生きのいい馬の麺ということらしい。もやしあんかけがなぜ「生きのいい馬?」となる人も多いが、戦後すぐにサンマーメンが登場した際、もやしがたっぷり入っていて栄養満点というところが「生きのいい馬」への連想につながったようだ。
国道6号沿いに広い駐車場のある「横浜ラーメン龍味」は、1983年に創業した。NHK連続テレビ小説「おしん」が爆発的な話題となっていて「オシンドローム」などという言葉が生まれた年だった。しかし、横浜の中華料理店で働きながら、亘理への移転準備で忙殺されていた野田さんに「おしん」を見るゆとりはあまりなかった。ただ、その舞台となっているのと同じ「東北」へ行く、ということは漠然と思った。
亘理での店のオープンを決意したのは、奥さんの実家が亘理にも近い福島県相馬だったことからだ。横浜で覚えたサンマーメンをはじめ本格中華を、ドライブインのように気軽に味わえる、そんな店にしたかった。
湯気が立ち上るサンマーメンがテーブルに運ばれてくる。もやし、白菜、キクラゲ、ニラ、ニンジンなどが丼全体にこんもりと盛られている。鶏&豚骨ベースの醤油スープに、野菜たっぷりの塩あんかけ。食べてみると、他店のあんかけラーメンより、かなりあっさりとした味わいであることに気づく。「戦後すぐにできた名物メニューでしょ。モノがない時代のラーメンだから、こういうあっさり仕立てにならざるを得ない」と野田さん。コストをかけずに栄養のあるメニューを、発案者のそんな涙ぐましい努力が表れているのかもしれない。全体にあっさり味であるものの、細麺とあんかけの絡み方が絶妙で「食べた感」は強い。また白菜のシャキシャキ感が実にいいアクセントとなっているのだ。
「あんかけ」というと寒い冬のイメージだが、龍味では、冬も夏も客の半分以上が注文する。宮城で味わえる横浜のご当地麺は、本場以上に、オールドスタイルのサンマーメンの面影を残す、唯一無二の看板メニューなのである。
2022年3月時点での情報です。