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移転を重ね、ようやく大崎市古川の「東台横丁」に落ち着いた「中華そば 笹生」。飲み処が軒を連ねる横丁で昼中心のラーメン店を開業するのはリスキーでもあるが、2020年6月の開店以降、着実に客足を伸ばしている。「うなま山地鶏」のガラから採ったスープ、そして兵庫県産「大徳醤油」をベースにしたタレ、2つの柱から作られる中華そばが今日もラーメン通を魅了する。
「中華そば 笹生」の店主・佐々木真さんが最初にラーメン店を出したのは、2014年12月のことだ。「中華そば 上々」という名で古川郊外に出店。それまでは、郷里の加美町で居酒屋を営んでいて、メニューの1つ「中華そば」が客に評判だった。
「それならラーメン店をやってみようか」。当初は居酒屋とラーメン店を両方、との思いもなくはなかったが、ラーメン作りを本格的に始めると、その考えは吹き飛んだ。食材探しや仕込みに時間がかかり、とても両立はできないとすぐに悟ったのだ。
「中華そば 上々」では、鶏や醤油、塩など食材の持つ旨味を大切にした。「居酒屋をやっていた頃から、食材の組み合わせによる味の変化を楽しんでいた。上々でも目指す味は決まっていて、それに合わせて食材を選んだ」と、佐々木さんは自身のラーメン作りを分析する。
その後、佐々木さんは体調を崩し、惜しまれつつ古川の「中華そば 上々」を閉店。急なことに驚いたラーメンファンも多かったが、2019年9月に仙台で「中華そば 笹生」として佐々木さんのラーメンは復活を遂げる。「ラーメン店の再開はずっと考えていました。たまたま仙台でいい物件があり、笹生をオープンしました」。今度は隠れ家的な奥まった場所にひっそり佇む、カウンター5席だけの小さな店だ。
初めからひとりのオペレーションを想定していたので、ちょうどいいと佐々木さんは考えた。そして「中華そば 笹生」でスープに使い始めたのが、宮崎県産「うなま山地鶏」のガラだ。山で放し飼いされて育った地鶏で上品な旨味が出る。これに国産丸大豆を原料に天然醸造された「大徳醤油」で作ったタレを合わせると、理想型に近いスープになった。ひと口目に、醤油の麹のような香りが飛び込んできて、その後に、まろやかな地鶏のスープが旨味を後押ししてくる。「醤油は火入れしていないんです」と佐々木さん。醤油以外の調味料は火入れしながらブレンドするが醤油のみそのまま使う。そうすることによって、醤油本来の香りがストレートに出せるのだ。
仙台での「中華そば 笹生」は、ランチ時、いつも行列ができていた。しかし1年ほどで仙台店を閉め、再び古川に戻り、東台横丁に2020年6月に同じ店名で開業。メニューの骨子は仙台時代とほぼ変わらない。鶏に少し魚介だしをプラスした「中華そば」、ほぼ鶏のみのスープが楽しめる「鶏チャーシューの中華そば」、そして、鶏スープに貝のだしを加えた「蛤とアサリ出汁の中華そば」。この3種のメインメニューにそれぞれ醤油と塩が用意されている。また限定で、煮干しや担々麺なども日替わりで登場する。
佐々木さんらしいのが、同じ調味料をずっと使い続けているわけではないところ。醤油を変えることもあるし、塩も岩塩や海塩など一定ではない。「いろいろ試していかないと、味は向上していかない」と佐々木さん。常に食材と向き合い最良の味を模索しているのだ。
現在、佐々木さんは「中華そば 笹生」の隣にカレー店「ささきラヂオ店」、そして2021年8月には、食堂的要素も盛り込んだ「中華そば 上々」を古川郊外にオープン。3つの店を営んでいる。
そんな佐々木さんにとって、ラーメンで大事なのは何か訊いてみると、しばらく考えたのち「雑味」という答えが返ってきた。「ラーメンの魅力は雑味にある。そこの自由度みたいなのが味に影響を及ぼす」。柔軟にラーメンを作り続け、どの地域のどんな店舗でも、クオリティ高い一杯をこともなげに作ってきた印象がある佐々木さん。その裏には尽きない努力がある。いい雑味を醸し出すためにも、多くのチャレンジが必要となってくる。佐々木さんが次にどんなラーメンを作ってくれるのか、そう期待せずにはいられない。
2021年12月時点での情報です。