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驚いた、2018年のオープン時は「三河屋製麺」の麺を使っていたはず。それがいつの間にか自家製麺になり、煮干しもどんどんグレードアップしていき、今や県内トップクラスの煮干しラーメンの店に。店主の小野田拓也さんは、ほとんどラーメン店での経験なしで「中華蕎麦 會」を開き、たったの3年である。その躍進の秘密に迫る。
仙台から国道6号を南へ向かって走っていると、広々とした駐車スペースに看板のない店が「営業中」の札を立てている。知らない人にとっては「いったいなんの店?」となるだろうが、ここが「中華蕎麦 會」だ。2018年のオープン時、居抜きで借りたのがこの店舗。新たに看板を作るのもお金がかかる。「店が軌道に乗ってから作ればいいか」そんなふうに考えスタートしたが、ラーメンの味が評判になるにつれ「看板のないラーメン店」の話題もネット上で広がっていった。「それなら看板はもういいか」と店主は柔軟に考え、いまだ店の看板はないままだ。
店主の小野田拓也さんは、福島県相馬市出身。東京で飲食店を10年以上経験した後、郷里に近い亘理町で開いたのが「中華蕎麦 會」だ。「ラーメンは独学ですよ」と笑いながら答える。
店を開く前、小野田さんは各地のラーメンを食べた。食べて食べて食べ歩いて、そうした中で出会ったのが青森の煮干しラーメンだった。「旨味もあるけど苦味も強い。でもハマるとクセになってしまう。これを宮城で出そう!」 そう決意してからは、自宅でラーメン作りの日々。さまざまな煮干しを取り寄せ、組み合わせを変え、自分の煮干しラーメンの味を完成させようと躍起になった。
「でも味に正解なんてないんですよ。オープンしてからも、スープの作り方はいろいろ変えている」と小野田さん。セグロイワシ、カタクチイワシ、アジ、さらには焼き干しなども使うスープは、日々、微妙に変化する。そこがまた、煮干しの魅力でもある。「時々、とんでもなくおいしいスープができたりする」そんな化学変化が楽しくて仕方がないと小野田さんは話す。
名物は、あっさりの「煮干しそば」、そして「濃厚煮干しそば」の2種類。いたってシンプルであるが、この2つの作り方はまったく異なる。あっさり煮干しは7、8種類の煮干しをベースにダシをとり、苦味をまろやかにするために羅臼昆布を合わせている。麺は細麺でツルッとした滑らかな食感が特徴。国産小麦の特徴をよく生かした仕上がりだ。
一方、濃厚煮干しは、カタクチやヒラゴなど4種類ほどの煮干しとなるが、こちらは煮干しの量が多くなる。さらに粘度を出すために、豚足や豚骨、鶏ガラなども加え2日間炊き込む。大きな寸胴にたっぷりの素材を入れて煮込んでいくのだが、完成した時にスープは半分の量まで減っている。麺はあっさりと同じ細麺であるが、食感がまるで違う。パツパツのザクザク、全粒粉も混ぜて濃厚スープに負けない食感にしているのだ。ややオーションの香りがするG系細麺といったおもむき。これくらい麺にパワーがないと、濃厚スープに負けてしまうのだろう。
スープの仕込みのほか、自家製麺作りも小野田さんの仕事だ。現在、あっさりと濃厚用の2種類の細麺、さらに太麺と合計3種の自家製麺を作っている。2021年6月から自家製麺を始めたが客の評判は上々だという。なにしろ煮干しのスープは、日々、変化する。それらに合わせるためには、自分で微妙な加減のできる自家製麺が最適なのだ。手間はかかるが、味の進化には代えられない。スープも含め、仕込みに時間がかかることもあり「中華蕎麦 會」では、夜の営業をやめ、朝と昼の営業にシフトした。
煮干しラーメンの研究に余念のない店主の小野田さん。誰よりも煮干しにハマってしまった男が、今後どんな煮干しラーメンを作っていくのか、ますます楽しみである。
2021年10月時点での情報です。