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初めて食べたのは、かれこれ25年ほど前。その頃は店先に看板もなく、ずいぶん迷ってたどり着いたのを覚えている。以来、仙北エリアに訪れた際に時々立ち寄るようになった、お気に入りのラーメン店である。鶏の旨味の詰まったスープ、硬めの自家製麺、そしてなにより「具無し」というシンプルさとオヤジさんの無類なおもしろさもあって、ついつい足を運んでしまう北国・秋田の名物店である。
創業は1988年。すでに30年以上、この地で営んでいる「自家製麺 伊藤」。なぜ、ラーメン店を始めたのか理由を聞くと「ラーメンが好きだったから」とこれ以上ないわかりやすい答え。とはいえ、ラーメン好きがみな、ラーメン店を営むかというとそういうことにはならないわけで、そのあたりの苦労を大幅に省き、行き着いた答えが「ラーメン好きだからラーメン店を開いた」につながるのだろう。
ただ伊藤は自家製麺である。
特にラーメン店での経験もなくできるものだろうか。
「製麺機を買えば、製麺屋が麺の作り方も教えてくれる」と、その問いにも答えは用意されている。好きとはいえ、素人同然で始めたラーメン店、苦労は大いにあったのだろう。強気な言葉のあとに「今の味に落ち着いたのはかれこれ15年くらい前だ」とポツリと主人がつぶやいた言葉が印象的だった。
伊藤のラーメンは好き嫌いが分かれる。
比内地鶏をベースに昆布や煮干しを織り交ぜたスープは抜群に旨い。ただ、量が少ない。これはもう創業以来の伊藤の伝統で「スープには一番お金がかかっているから、たくさん入れられない」と、ウソかホントかわからぬようなことを主人は言う。こういうスタイルなのだと、自分を納得させ食べるしかない。ただ、伊藤の場合、硬めの自家製麺もうまいので、個人的にはこのスープが少ないのもまったく気にならない。むしろ麺の香りや味を楽しむには、スープが少ないほうがいいとさえ思える時もある。
ネット上で「ボキボキ」などと表現されることも多い自家製麺も独特だ。
加水率がどうなっているか主人にたずねると「おれに言わせれば加水率どうこうというのは関係ない。冬には冬の、夏には夏のその時期、その日に合わせて一番よい麺を作るだけだ」とのこと。
奥が深いような言いくるめられているような微妙な回答だが、この個性派主人だからこそ、スープ極少、麺超硬めというラーメンができあがったのだろうことは想像に難くない。
ラーメンが個性的な伊藤は、店内も個性的である。シンプルなカウンターに丸椅子が8個並べられているが、その上には煌々と輝く電球が。その数はあきらかに席よりも多く、こんなにびっしり並べなくてもと思わずにはいられない。
そんなさまざまな伊藤流を楽しみながら、存在感たっぷりのラーメンを食べてみよう。
2021年2月時点での情報です。