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人類生誕史上最濃スープを謳った「ヘルズキッチン」のオープンが2010年。それから10年以上の年月が流れ、濃厚も淡麗も、酸いも甘いも経験してきた、こもれ美の店主・岡良平さんが作るラーメンがうまい。いや「うまい」というひと言でかたづけてしまいたくはないのだが、冬に登場する「味噌らーめん」の前では、あらゆる能書きはひっこめ、ただひたすらにこの味噌の世界に耽溺したいと願うのみなのである。
金髪だしヘヴィメタルのTシャツ着てるし、ちょっと常人ではない雰囲気が漂う店主の岡良平さんは、実はかなり律儀で「いい人」であることは、県内のラーメン関係者ならだいたい知っている。2010年に伝説の「ヘルズキッチン」を富谷にオープンさせた印象がいまだに強く残っているが、そちらは惜しまれつつ2017年に閉店。今は「こもれ美」にて、岡さんならではの素材の旨みをストレートに伝えるラーメンを作り続けている。
「ヘルズキッチンを開く前? 普通にサラリーマンしてましたよ。サイエンスというよりケミカルの研究者みたいな感じでした」。誰もが知る大手メーカーにて、化学を仕事にしていたラーメン屋店主を私はあまり知らない。
「そこからヘルズキッチン?」。
「そこからヘルズキッチン(笑)」。
ずいぶん振り切ったものである。金髪もそこからの反動だろうか。
12月、あたりが寒くなり始める頃「味噌らーめん」は登場する。常連客は待ちかねたように「味噌」「味噌」と連呼するイメージで券売機の味噌ボタンを押す。4月末まで、この時期のこもれ美のメインのラーメンは味噌となるのだ。こんなに人気があるのなら通年やればいいのに、誰しもがそう思うが、岡さん曰く「熱くて無理」とのことだ。味噌らーめんを作る上で1つのポイントは、調理時の炎を上げての煽りにある。札幌の味噌ラーメンでもそうだが、火の香ばしさを丼に移すことで、味噌の旨みは倍加する。ただ、調理は必然的に「熱く」なる。
さて、そんなわけで冬にしか味わえない「味噌らーめん」だ。
ノーマルでも十分うまいのだが、ここは少々奮発して、辛味噌とマー油トッピング、合わせて160円はマストで入れたい。ビジュアル的にも白、黒、赤、と大変美しく(ないかもしれないが)なる。なにより、マー油がこの味噌らーめんと抜群の相性を見せ、最高の仕事を成し遂げているのだ。たぶんマー油は、こもれ美の味噌らーめんと出会うために世の中に生まれてきたのだと思う。「味噌ラーメンって最初はおいしいけど味が単調で」などと普段言っているあなた(実は私です)には、ぜひ、こもれ美のマー油のせ味噌らーめんを食べて改心してもらいたいものである。
嵐のごとく味が体内を駆け巡る味噌に比べ、「塩らーめん」は店名同様、おだやかである。丸鶏メインに味を抽出したスープは、なんと18時間かけてコトコトと煮込む。スープに濁りはなく、完成度の高い塩ラーメンではよく感じることだが、実に香りがいいのだ。中太麺は京都の「麺屋 棣鄂」で軽い縮れがあり、その上品な喉越しもこのスープにぴたりとはまっている。まるで化学者が細心の注意を払って作ったかのような、繊細な味である。
ちなみに、岡さんが店で毎日来ているヘヴィメタルTシャツは、50枚以上あるそうで、保管も大変だろうなあとしみじみ思いつつ、淡麗な「塩らーめん」も平らげたのであった。
2021年1月時点での情報です。