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暖簾をくぐり「ひとつ」、こう告げるだけでよい宮古の老舗ラーメン。
メニューは「中華そば」のみ一品。なんとも潔いのである。
以前は、普通盛りと大盛りの2種類を出していたそうだが、会計時に手間が増えるので、いつしか麺の量を大盛りにし値段は普通盛りのまま、という現在のスタイルに落ち着いた。シンプルイズベスト、なのである。
そうしたシンプルさの追求のゆえなのか、ラーメンも実にシンプルである。
スープは、決め手となる煮干しの風味を鶏ガラが包み込む、まろやかで味わい深い仕立てだ。合わせる麺は低加水の自家製麺。かんすいをおさえた素朴な味は、昭和28年の創業以来、ほとんどその製法が変わっていない。手もみを加えて縮れの立体的な食感を生かし、スープとの絡みをよくしている。
1玉200g超というボリュームながら、脂分をおさえた胃に負担の少ないラーメンだけに、特に麺が多いと感じることのないままに、最後のひと口までたいらげられる。
使われる食材は岩手県産のものが多い。魚介系の材料は山田町のものを、醤油は盛岡といった具合。ただ、さすがに昨年の東日本大震災以降は、仕入れに苦労した。
「店が2mほど浸水して……冷蔵庫も食材もほとんどやられてしまった」とご主人。店を再開できたのは、震災からちょうど50日目のことだった。支えてくれた地元の人たちに感謝を込め、2日間は無料で中華そばを振る舞った。
今は山田町から震災前と変わらずに、魚介系の材料が調達できるようになった。真骨頂である「毎日食べても飽きない味」も健在。ご主人のこだわりが反映された、地元志向の強い珠玉の一杯を食べに、今日も多くの常連客が暖簾をくぐるのであった。
※2012年9月時点での情報です。