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文春文庫ビジュアル版で1990年に出版された、『ベストオブ丼』という本がある。いやもう、これぞ丼本の王道ともいうべき、B級グルメファンにはたまらない一冊だ。
この本の表紙を飾っていたのは、当然のなりゆきではあるが、カツ丼である。なんでもこの年は、カツ丼生誕77年という記念の年であったようだ。ということは、それから23年が経過する2013年はカツ丼生誕100年の記念の年に当たる。さすが丼界の巨星だ。
俺もかつては、週に2度はカツ丼を食べていた無類のカツ丼好きである。(今は週1くらいにペースダウン)。俺の好きな食べ物ランキングにおいても、幼少期からカツ丼がベスト3をこぼれたことはない。ちなみに東京で育った俺のカツ丼ライフは、カツと玉ネギを甘じょっぱい丼つゆで煮て卵でとじたもの一辺倒。
その常識が覆されたのが、会津若松で出会った「ソースカツ丼」である。
ご飯の上にキャベツがのり、その上に大きなカツがドーンと鎮座した会津のソースカツ丼。これを初めて食べた時は、強い衝撃を受けたものだ。以来、会津のソースカツ丼巡りを楽しむうちに出会ったのが、カツ丼のさらなる新境地「なかじま」の煮込みソースカツ丼だった。
洋食屋だった先代の社長が、手軽に食べられる「洋食風丼」をと研究に研究を重ね、独自のソースだれを完成させた逸品である。店に登場したのは昭和25年頃というから、60年以上も愛され続けてきた看板メニューだ。
この煮込みソースカツ丼のすごいところは、ご飯とキャベツの上にカツがのったスタンダードなソースカツ丼ではなく、見た目は普通の卵とじ系カツ丼であることだ。どういうこと?と、軽い混乱を覚えつつ、がっとひと箸口に運べば、なるほどふわとろの卵が包み込む丼の味のベースは醤油ではなくソース……。これがカツにもご飯にも実によく合うのだ。
やわらかな肉質のカツは、福島県鮫川村で飼育されている「健育美味豚」。ほどよい旨味があって食べやすい。カツ丼、というとかなりヘビーなイメージであるが「なかじま」のカツ丼は、ソースの香ばしさ、豚のさっぱりとした味が相まって、比較的ライトな仕上がりと言える……まあ、ライトと言ってもカツ丼ではあるので、それなりにボリュームはあるのだが。
カツ丼は丼つゆで食べないと……そんなこだわりを持つ貴兄にも、ぜひ食べてもらいたい会津若松の煮込みソースカツ丼。丼のフタをあけた瞬間、鼻腔を刺激するオリジナルソースにノックアウトされること必至である。
※2012年6月時点での情報です。