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のどかな地平にやわらかな山々の稜線を望む遠野郷。柳田國男の『遠野物語』が世に知られるようになって以来、民話の里として有名になった地である。
が、B級グルメの間では、むしろジンギスカンの里として知られる地域なのである。
その遠野で50年以上続くジンギスカンの専門店が「あんべ」。「じんぎすかん」の文字が染め抜かれた白暖簾や、テーブル上に敷かれた新聞紙が、シンプルに「旨い!」を追求する「俺のB級グルメ魂」を熱くする。
感動の予感に身を震わせつつ、ここで注文するのはもちろんジンギスカン定食。
あんべのジンギスカン定食には、4種の肉が用意されている。リーズナブルなメニューから順に紹介すると、マトンモモ、ラムカタ、ラムモモ、ラムカタロース。
俺的におすすめなのは、いちばん安いマトンモモと、いちばん高いラムカタロース。
マトンモモは羊肉らしい濃厚な旨味にあふれていて「あぁ、オレ肉食ってるなあ」という快楽にひたれる一品である。ラムカタロースは、やわらかく適度な刺しが入った上品な肉で「あぁ、私お肉食べてるのね」という至福が味わえる一品。
肉の良さに加えて、他では再現できない秘伝のタレの功績にも触れておかねばなるまい。とにかくすごい!せっかく遠野まで行くのである。ぜひとも存分に味わいたいところ。
ジンギスカンを食べる上で肝心なのは、その焼き方である。
鉄兜のような半円形をなした鍋の天頂部分に脂を載せ、鍋全体をしっとりとさせる。頃合いを見て縁の野菜を載せてから、空いたスペースでおもむろに肉を焼くのが王道だ。
厚切りのやわらかな羊肉を、南部鉄器の特製鍋で焼いた場合、あまり早くひっくり返そうとすると、肉が鍋にくっついて離れないという事態に陥る。そんな光景を常連客に目撃された場合は「あらあら、あちらさん大変ねぇ」と失笑されること必至である。
そんな恥をかかないためには、肉の縁が焼き色に変わってきた頃に、ビシッと手慣れた手つきでひっくり返すようにすることだ。片面をじっくり焼けば、裏はほんの少し焼くだけで十分。焼き過ぎてはせっかくの上質な羊肉が台無しになる。
ほどよく焼けた肉を素早く醤油ベースの秘伝のたれにつけ、後は口へ一直線。厚切りの肉は、なんとも艶めかしい味わいで、そのぷりぷりの食感がたまらないのだ。
※2012年6月時点での情報です。